本研究では、文章による日記記録が抱える「感情の言語化に伴う負担」や「継続の難しさ」という課題に着目し、色で感情を記録する日記アプリケーションを開発・評価した。感情は多次元的かつ曖昧な体験であり、必ずしも明確な言語表現に対応しないことが心理学的に指摘されている。このため、日々の気持ちを文章で記録する行為は認知的負荷を伴い、日記継続の妨げとなる場合がある。一方で、色は感情と自然に結びつく視覚的情報であり、非言語的な表現手段として感情の表出や振り返りを支援する可能性がある。
本研究では、「色で感情を記録する」ことが、感情表現のしやすさ、感情への気づき、日記継続のしやすさにどのような影響を与えるかを検証することを目的とした。提案システムでは、ユーザがその
日の気分に近い色を選択するだけで記録が成立し、必要に応じて短いメモを追加できる構成とした。また、過去の記録をカレンダー形式で振り返る機能を備え、感情の変化を視覚的に把握できるよう設計した。
評価実験では、20 代から 50 代の参加者を対象に、1 週間にわたり本システムを使用してもらい、実験終了後にアンケート調査を実施した。評価指標としては、アプリの使いやすさを測定する System
Usability Scale(SUS)に加え、色による感情表現のしやすさ、言葉にしにくい気持ちの表出、感情への意識化や振り返りへの寄与などを調査した。
その結果、SUS
の平均スコアは高い値を示し、操作の単純さや記録方法の自由度が高く評価された。また、色による記録については、「感情と結びついている」「感情を表現しやすい」と感じた参加者が一定数見られ、色という非言語的手段が感情表現において有効に機能する可能性が示唆された。一方で、中立的あるいは否定的な回答も同程度存在しており、色による感情表現の捉え方には個人差があることが確認された。さらに、「言葉にできない気持ちを表せた/残せたと感じる」という項目において肯定的な回答が一定数見られたことから、本システムは感情状態そのものを操作するのではなく、感情の認識や理解を支援する役割を果たしていると考えられる。
以上より、本研究は、色を用いた感情記録が、文章による日記記録を一律に代替するものではないものの、言語化が難しい感情を扱う場面において、従来の日記記録を補完する新たなインタフェースとして有効である可能性を示した。今後は、長期利用による影響や、色と感情の対応関係における個人差を考慮した分析を行うことで、より深い自己理解を支援する感情記録手法へと発展させることが期待される。