社会情報学部情報デザイン専攻の堤ゼミでは、ゼミ活動の一環として東京ビッグサイトで開催された東京国際プロジェクションマッピングアワードVol.1に出場。2016年12月17日に4,000人以上の来場者の前で、ノミネート作品「Starting over」を上映しました。当アワードは世界で通用する若手映像クリエイターの登竜門を作ることにより、将来のコンテンツ産業の中核となる人材の育成を実現すると同時に、プロジェクションマッピングというCG映像コンテンツ技術の高度化と普及を促進し、その取り組みを世界に発信することにより、日本発のコンテンツに対する興味・関心を高める機会を創出すること、また、東京オリンピックに向けて、日本のコンテンツ制作力を引き上げ、海外でのCOOL JAPANブランドの向上に貢献することを目的としています。

東京ビッグサイト会場写真 会場となった東京ビッグサイト会議棟側面壁

 

1.参加決定

2016年6月末、申し込み締め切り直前に当アワードに参加することをゼミ(3年)で決め、チーム名を「Cotton Candy」、担当教員を堤としました。7月に入って企画案、イメージビジュアル、絵コンテなどを作成しましたが、絵コンテ制作は初めての経験で苦労しました。それでもゼミ単位で目的に立ち向かうことの意義はしっかり感じていたようです。

 

2.作品制作に向けた学習

8月、夏休みに入ると第一次審査の結果発表前から、連日集中講義を行ってコンテンツ制作のための勉強を始めました。内容はプロジェクションマッピング、モジュロール、3DCG制作、人体アニメーション、幾何学パターン、だまし絵、錯視、フラクタルなどについてでした。堤ゼミでは3D-CGの授業を必修としていますが、本格的な3D-CGソフトの使用は後期からですので、授業に先んじて夏休みに一気にそのスキルを手中に収める必要があったのです。

 

3.第1次審査通過

8月10日、第一次審査発表の日、全員で集まって審査結果を待ちました。19時頃に事務局から第一次審査通過の知らせを受け、さらに頑張ろうと、チームの気持ちを一つにすることができました。

 

4.作品テーマと制作

審査発表の日以降、完パケ(最終作品)提出日である11月30日までゼミ生は各自の担当を全うすべく、時には休日や日曜日も返上で努力を続けました。今回は以下に示すように人間と建物との調和・秩序がテーマでした。

人間と建物との調和・秩序が埋もれつつあると感じたもじゅろう(Modulor)は地球に乗り込みます。しかし、一見無秩序に見える建物を象徴する咲き乱れる花たちの中で、自分と花にはフィボナッチ数列や黄金比など、根の部分では共有しているものがあることに気がつき、もじゅろうは楽しく優しい気持ちになって花と融和していきます。

今回の作品において、もじゅろうは、建物を設計する際に用いられてきた基準寸法であるモデュールを発想の原点とする、人間と建物との調和・秩序を守る生き物という設定です。

冒頭写真 作品の冒頭部分(以下、写真はいずれもアワード事務局による記録映像より:https://www.youtube.com/watch?v=w9UJb2zNCr8&t=46m40s

モデュールの中でもよく知られているのが、ル・コルビジェによってモデュールと黄金比、フィボナッチ数列を組み合わせて再構成されたModulor(モデュロール)です。世界文化遺産に登録が決まった国立西洋美術館にも、その窓枠や外壁パネルの寸法にモデュロールの寸法が採用されています。

さて、例えば東京の街並みは、俯瞰写真などをみると一見思い思い調和も考えずにそれぞれの建築がデザインされているように見えます。今回、これを自由に咲き乱れる花たちで象徴的に扱いましたが、いろいろ考えるうちに、現代建築も何らかの寸法システムを持っているはずで、実は花もフィボナッチ数列などの規則性を持っているのでモデュロールと無関係ではないことに気がつきました。

中盤写真 作品の中盤、集団行動など規律に基づくもじゅろうの動きと気ままな花が触れ合う

そこで、もじゅろうと花たち(つまり現代建築)とは相反するものではなく最後は融和するという形にしました。また、テーマが空間寸法を対象としているので、強調された透視図やだまし絵風のシーンを作成し、プロジェクションマッピングらしい立体感と空間表現も試みました。

毘沙門亀甲写真 東京ビッグサイト会議棟壁面の形状に合わせた立体図形表現(毘沙門亀甲)のアニメーションシーン

なお、作品はもじゅろうと現代建築の新たな旅立ちを示唆するものとして「Starting over」と名付けました。作品の最後はもじゅろうと花たちとの融和を表現しています。

終盤部分写真 作品の終盤、花と融和するもじゅろう

 

5.感想と今後

作品には印象に残るカラフルなシーンを中心に、メービウスの輪とか、ペンローズの三角形、コルビジェのモジュロール・トゥーレット修道院の一室、フラクタル図形(踊るもじゅろうの足下や育つ植物の柄に配置)、毘沙門亀甲など、ゼミで取り上げるような内容を組み込みました。当日、実習室のスクリーンやPCモニターでしか見ることがなかった作品が幅90mほどの大きな外壁に投影された時は、さすがに感動しました。

作業が次々に増えて余裕があまりなくなってきた9月上旬に敢行したゼミ合宿では、PCを持ち込んでそれまでの作業を振りかえり、今後の指針を決定するために夜遅くまで話し合ったことが思い出されます。このようにチームメンバー全員がそれぞれ責任を持って担当部分をよりよく仕上げるために努力した点は、十分に評価できます。このような努力は今後、卒業研究の中でも十分に生かしていくことができるでしょう。

チーム_Cotton_Candy写真 チーム「Cotton Candy」と指導教員

その一方で、作品上映後に審査委員の先生方から直接伺った講評からは、映像や作品構成の基本を十分に身につけていないことの問題点が浮き彫りになりました。今回の挑戦では、まだ学生の内側に職業としての登竜門的な発想はなかったので、作品への向き合い方が不十分だったとも感じています。

また、先にも書きましたように、3D-CGの学習を始めたばかりの段階だったので、モデルやアニメーションの制作では頭の中にイメージは浮かぶものの、やりたいことに対して技術が追いつかず悔しい思いもしたようです。さらに、メンバー間で報告・連絡・相談がうまくできなかった時には、作業に余計な時間がかかったり、やり直しが重なったり、特定のメンバーの負荷が大きくなってしまったりして辛い経験もしたようです。

それでも、なんとか一つの作品として仕上げることができたことは、達成感という高揚を伴って、今後、卒業研究の中でも、あるいはその後の人生の中でも十分に生かしていける自信になったと思います。7月から11月末まで、非常に長い時間を要する活動ではありましたが、チームで議論し、自分を振り返り、仲間を知る、得難い5か月間だったと思います。

(記: 2017.01.07 堤研究室)