報告者: 植田智恵美(松田ゼミ)

卒業研究として行った「ARを用いた「見て操作する」システムの試作と評価」を、3月15日、早稲田大学で開催された第80回情報処理学会全国大会で発表し、学生奨励賞を頂きましたので報告します。受賞理由は以下です。

  • 家電機器を操作する研究は今後重要である。
  • 実装から評価までをしっかり行っている。
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1.情報処理学会に関して

情報処理全般にわたる分野の調査・研究を目的とした学会で、全国大会は情報処理学会が年1回(春季)開催する学会最大のイベントです。大会では最新の学術・技術動向や情報に関する新しい研究成果やアイディア発表を通し意見交換・交流が行われます。

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2.発表内容

今日、電化製品を含む様々な機器がIoT化されつつありますが、機器の操作方法は機能・設置場所に応じ様々です。例えば、天井の蛍光灯の照明はスイッチが操作対象(照明)と離れた場所にあり、どのスイッチがどの照明を制御するか分かりにくい、また、操作対象にスイッチがついている電気スタンドなどでは、手の届く範囲にない場合、スイッチを消しに行く必要があります。

このような不便さを解決する方法として、リモコンがありますが、リモコンは置いた場所を忘れたり、複数個使用していた場合は、電化製品ごとにリモコンを判断して使い分けるという使用上の負荷が生じます。今後、ARの発達に伴いHoloLensのようなカメラ付きのシースルー型の眼鏡の普及が予想される中、本研究では、これまで提案してきた「見て操作する」方式を、ARを用いて開発したシステムを使用して実験を行い、評価しました。

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本システムは、Processingで開発し、AR用ライブラリとしてNyAR4psgを使用、電化製品の操作にはArduinoに赤外線LEDを搭載して用いました。本システムを起動し、電化製品に付けたマーカを認識するとタブレットの画面にカメラに映った電化製品とその操作ボタンが表示され、それをタッチすることで機器のON・OFF操作ができます。様々な機能の付いた機器では、各機能に対応するコントロールを表示し、制御する機能を持ちます。

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本システムの評価は、20名の本学の学生を対象に、本システムと複数のリモコン、学習リモコンを用い3つの照明器具を制御する実験を行いました。実験では、それぞれの試行における操作時間を計測し、最後に使い易さや操作に関するアンケートを行いました。

実験の結果、3つの器具の操作にかかった平均時間は、本システム(15.2秒)が最も短く、次いでリモコン(16.5秒)、学習リモコン(71.65秒)となりました。

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この結果から、本システムとリモコン、本システムと学習リモコンの操作時間に関してt検定を行ったところ、本システムとリモコンとでは有意差は認められませんでしたが、学習リモコンとでは有意差が認められました。一方、本システムとリモコンとでは有意差が認められなかった原因は、今回の実験ではリモコンを手元に並べた状態でON・OFF操作だけを行ったためと考えられ、様々な種類のリモコンが散在していたり、他の機能を操作する実環境では差が出るものと考えられます。

また、アンケートの結果から、3つの操作方法(本システム、複数のリモコン、学習リモコン)の中で本システムが最も使い易かったと80%が感じており、ユーザー体験としては良好なものであることが分かりました。

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以上より、「見て操作する」方式を使用した本システムは、他の方法と比べ最も早く操作出来た人が多く、アンケートからも被験者に受け入れられる可能性が高いということが分かりました。今後の予定としては、本実験では簡易評価のため視覚的なマーカと赤外線による機器操作を用いましたが、マーカは、赤外線マーカなど目に見えないものに変更、機器の操作もIoT化を前提にネットワーク経由で行えるようにすることなどがあげられます。また、ネットワーク上に機器の状態管理サーバを置くことで、複数の人が同一機器を操作したしたときに機器の状態をUIに反映することが可能となります。

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3.
発表に関して

全国大会当日は、午前の部で発表を行いました。初めての学会発表で、私が参加したセッションの中でもトップバッターだったということもあり、とても緊張しましたが、無事に発表を終えることができました。発表後3人の方から質問、コメントをいただきました。

  • 複数の電化製品のマーカが画面の中にあった場合はどうなるのか?
  • 最終的にはHoloLensのようなHMDで研究をするのか?HoloLensにはこのような研究を行うのに適したライブラリがある。
  • 被験者は学習リモコンを使ったことがあるのか?無い場合は、練習はしたのか?
  • Sonyが出しているタッチパネル型の学習リモコンで評価するとよい

等の質問以外にも、新たなアイディアや知識も得ることができ、とても充実した15分間となりました。

4.終わりに

3年次の後期から本研究を始め、システムの制作で思い通りにいかないこともありましたが、ご指導をいただきました松田晃一教授、非常勤講師の永田雅人先生、実験やアンケートに協力して下さった松田ゼミのメンバーをはじめ多くの方々の協力によって、今回の発表を成功させることができました。発表後、他の大学の方々から面白い研究だったというお言葉をいただき、評価していただけたことを非常に嬉しく思います。また、他の大学の方の研究も聞くことができ、視野を広げることができました。このような素晴らしい経験をさせていただきありがとうございました。この経験は今後の生活の中でも活かしていきたいと思います。

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