情報デザイン専攻2年生の必修科目「クリエイティブ思考法」の第1回目(4月14日)は、今年度も本学名誉教授の田邉和子先生をお迎えして、「女性として生きる-卒業生の就職を通して」というテーマで講演していただきました。

田邉和子名誉教授の講演

講演の前半では、先生のご専門の原子核物理から、原子力の優れた点と問題点について学生にわかりやすい説明がなされました。後半では、情報デザイン専攻の卒業生の就業状況や、女性が活躍できる職業や仕事の選び方などについて、具体例とともに話が進みました。

学生は受講後の感想文で、たとえば「2011年度の東日本大震災で起こった様々な問題を自分自身のこととして捉えるようになった」と述べたり、また、就職について、「女性として社会で生きていくために、改めて考える機会になり、大学での勉強に対する意欲が一層高まった」と述べるなど、この授業をきっかけに社会への関心や本専攻で学ぶ意味を再確認できた様子でした。物事をいろいろな切り口で考えることや、積極的に新しい情報にアクセスして判断を行うことの重要性についても感想文で触れられていましたが、これは当授業の狙いである「気づき」であり、今後さらに理解を深めて行動に移してほしいものです。

 

以下は、講演後の学生の感想文から抜粋したものです。

 

放射能は害を与えるだけのものだと思っていましたが、考古学における年代の調査で必要なものだと知り、害を与える一面もあるものの、歴史を解明するという偉大な研究の一部に必要だということに驚きました。今まで原子力と考古学は全く関わりのない学問だと思っていたため、大きな関わりがあったことにも驚きました。(Kさん)

新しいエネルギー源が作られている事を知り、うれしかったです。もっとCO₂を作らず効率よく発電できる方法が開発されて安全な物ができるといいなと思いました。(中略)
卒業後の進路については、大妻は就職率が高く情報系が強いと聞きこの学部(情報系)での学びを生かして就職が決まるといいなと思いました。(中略)
企業側が求める礼儀正しさ、協調性をあと3年間で身に付けていき、普段から礼儀に気を付けて行動していこうと思いました。必要だと思われる人材にどうしたらなれるのだろうと考えられるきっかけになる講義でした。(Cさん)

 原発事故による放射能汚染で人体の影響など様々な不安要素が身の周りに起きていることを改めて知りました。しかし、それに対処しようと検出器の開発、宇宙線のミューオン測定装置の発明などの対策に取り組んでいることに感心しました。このような技術がますます必要となってくるとのことなので、私も大学で広い視野を持って学び、能力や技術を伸ばしていきたいです。(Aさん)

 東日本大震災の時の原発事故における放射能について、イメージはできても詳しいことは知らなかった。地震から月日が経ち、以前よりは原発問題などが報道されることは少なくなったが、未だに問題は多く残っていることが分かった。放射能などの問題などから他のエネルギー源を利用していこうとしても、それぞれにメリット・デメリットがあるため、簡単には移行することはできないということが、難しい問題だと感じた。(Kさん)

原子力発電について、今まで問題の内容をしっかりと理解してニュースを見てはいませんでした。今日のお話しを聞いて何が問題であるのか、知ることができました。今まではニュースを何気なく見ていましたが、汚染の現状や原発の内部についての詳しいお話しを聞いたことで原発問題への考えも変わりました。
人間の生死にも関わる自国の問題なので決して他人事ではないと感じました。原発に問題があるから代替エネルギーを使おうといっても、代替エネルギーにもそれぞれ問題があったりして、簡単に解決できる問題でもないので深刻なことだと思いました。(Mさん)

会社の選び方で将来伸びそうな会社、働き易い会社などの資料がとてもためになりました。企業が求める、基礎学力、協調性、礼儀正しさ、気配りなどを日頃から意識し、大学生活で身に付けていきたいです。(Nさん)

田丸ゼミの卒業研究をもう1件ご紹介します。

VisualBasic言語を用いて自動車の渋滞シミュレーションを行いました。 セルオートマトンの原理に基づき前に空きスペースがあれば走行でき、無い場合は停止するという簡単なルールを用いています。一方通行路と、途中1箇所に交差点がある道路の2種について検討しました。

図1は交差点がある場合のプログラム実行途中の表示画面です。2本の直交道路の左端および上端からランダムに自動車が発生し、右方および下方に黒丸(自動車)が移動します。画面では渋滞が13回発生したことが示されています。


図1 プログラム実行途中の表示画面

図2は交差点道路の観測時間と渋滞回数の関係のグラフです。パラメータとして、自動車の発生頻度を40,50,60% としています。


図2 渋滞回数のグラフ

ゼミのホームページで他にも卒業研究の紹介をしています。こちらをご覧下さい。

田丸ゼミの卒業研究をご紹介します。

LEGO社のMindstormsロボット用カラーセンサ2種に関して、 センサとカラー対象物との距離、角度、周囲光などに対するカラー認識特性を測定し、 相互に比較しました。さらにこれらをロボットに搭載し、 ライントレースの走行制御を行い、走行特性などを測定しました。

図1は標準カラーの認識特性(角度の変化に対する)の測定に関して分度器を用いて センサの角度を調整している様子です。


図1 角度変化に対する特性測定

図2はカラーセンサによる走行特性を測定するときのロボット外観写真(ロボット先端にカラーセンサが設置されている)です。


図2 走行テストに使用したロボット

このように、田丸ゼミでは研究テーマとして「予測」や「推定」を取り上げ、それらに関する問題をプログラミングによるシミュレーションあるいは実験により検証しています。

<松田ゼミ-3 前へ>

報告者: 青木友花(情報デザイン専攻/松田ゼミ)

松田ゼミに所属するゼミ生(青木)は、卒業研究として「ウェブ視聴履歴に基づくウェブサイトの類似性に関する研究」を行い、卒業論文として提出ました。今回はその締めくくりとして、2月27日、東京タワーの麓の機械振興会館で開催された電子情報通信学会の情報・システムソサエティが主催するソフトウェアインタプライズモデリング研究会で発表してきましたので報告します。発表資料は、ここを参照ください。

研究会に関して

ソフトウェアインタプライズ研究会は、インターネットとエンタープライズを足し合わせた造語で、インターネット上でのエンタープライズ型のWebベースアプリケーションやソフトウェア、そのビジネスモデルに関する研究を行っている企業や大学の研究者が集まり、発表、議論を行う研究会です。

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発表内容

本研究はソネット株式会社の竹内彰一シニアリサーチフェローのご協力のもと、ソネットメディアワークス社が保有する「ユーザがどのウェブサイトを何回見たか(ウェブ視聴履歴と呼びます)」というデータを用い、そこから全体のユーザを代表するユーザを約2万人選び出し、それぞれのユーザが2084個のサイトに対して1ヶ月間に何回アクセスしたかという情報、すなわち「ユーザのアクセス行動」から見たサイト間の類似性を2種類の統計手法で評価したものです。ここで用いたあるユーザのアクセス行動とは、例えば、あるユーザがその1ヶ月の間にサイトAを830回、サイトBに2015回、サイトCを326回見た場合には、そのユーザのIDと830、2015、326という回数だけを扱うもので、サイトA、B、Cが具体的にどのような内容のサイトであるかという情報は含まれません。

研究の結果、あるサイトにアクセスしたユーザが次にどのようなサイトをアクセスするかを予測できる可能性があることを確認でき、また、今回用いたアクセス行動履歴のデータにはサイトの内容に関する情報を含んでいないにも関わらず、それを用いて計算した結果得られた類似サイトの内容を実際に調べてみると、以下の図に示すような「内容の類似性」があることが分かり、行動との関係性を見出すことができました。

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発表に関して

研究会当日は、日本IBMの方の特別講演で始まり、口頭発表が全部で7件ありました。参加者は30名弱で、ほとんどが企業の方でした。発表時間は20 分、質問時間が5分でした。初めての学会発表であり、また、20分もの発表をしたことがなかったので、うまく話せるか不安でしたが、発表前に竹内さん、松田先生に何回も練習しいただけたので落ち着いて話すことができました。発表後、3人の企業の方から質問をいただいたのですが、うまく答えることができず(松田先生に助けていただきました)質問という場の重要性をあらためて感じました。

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終わりに

3年生の後半から本研究を始め、就活などで一時期大変な時期もありましたが、なんとか学会発表までこぎつけました。終わってみると一般企業の研究者の前で発表するという大変よい経験ができたと思いました。今回の卒業研究は、ソネット株式会社の竹内シニアリサーチフェローのご厚意とご協力で実現しました。このような場を持たせていただけたことに大変感謝し、ここに厚く御礼申し上げます。今後は、この経験を社会で活かして頑張っていきたいと思います。

 

 

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中野ゼミではアートやデザイン、地域の文化に触れることを目的に毎年ゼミ合宿を行っています。2014年夏は香川県の瀬戸内海に浮かぶ直島(なおしま)と豊島(てしま)を訪れました。近年、瀬戸内海は、3年ごとに開催される「瀬戸内国際芸術祭」や美術館の影響で現代アートの聖地として世界に認識されつつあります。今回は残念ながら芸術祭期間ではありませんでしたが、それでもこの小さな離島に国内外から多くの訪問者がいるのには驚きました。

1日目は、高松からフェリーで「直島」を訪れました。安藤忠雄設計の「地中美術館」「ベネッセハウスミュージアム」や、島の人々が暮らす地域に点在する古民家などを改修してアーティスト達が作品化した「家プロジェクト」などを巡ることができました。

2日目の「豊島」では、レンタル自転車(坂が多いので電動!)で島に点在する作品を巡りました。途中、慣れない自転車のため、レンタル屋さんに少しだけ荷台に乗せてもらう…なんていうハプニング(楽しみ)もありました。

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棚田を望む小高い丘にある「豊島美術館」では、どこからともなく水滴が湧き「泉」をつくっては地面を流れて消えていく内藤礼と西沢立衛による作品「母型」を体験しました。ゆっくり流れる時間のなかで自然の微細な変化を感じ取る貴重な体験をすることができました。

印象的だったのは、帰りのフェリーで隣に座った人から豊島の土壌汚染(1975年から16年間もの間に産業廃棄物を不法に投棄する島にされていたという、いわゆる「豊島事件」)について、貴重な話を聞けたことです。今では世界でも指折りのアートリゾート地になったこの小さな美しい島ですが、かつては経済成長による暗い影を落としていました。豊島はいまでも毎日汚染土壌の処理が行われ作業員がフェリーで通っているのです。

豊かな瀬戸内の自然と島の歴史、多くのアートに触れた2日間は、ゼミ生にとって大変貴重な体験になったのではないかと思います。また訪れたい場所になりました。

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<ゼミ生の感想>

今回の合宿で様々な作品を観て、今後の糧となる多くのことを感じることができました。直島のベネッセハウスミュージアムに展示されていた、ブルース・ナウマン「100生きて死ね/100 Live and Die」が特に印象に残りました。ブルース・ナウマンについて調べたところ、人間が存在するためには生の対立項である死や不安がなくてはならないという不条理を突き詰めるアーティストであると述べられていました。この作品も様々な言葉がLIVEと DIEの対のかたちで100つづられていて、それがよく表れているように感じました。使われているものはネオン管灯ですが、作品を観た時間帯的にも明るく、広々としたコンクリートの無機質な空間に展示されていたので、それがより作品を俯瞰して観させてくれているように感じ、とても好きな空間でした。その空間だけでなくタイトルにも惹かれました。死ねという言葉を使うことや作品の雰囲気などに、一般的に使われる綺麗とはまた別の美しさを感じます。タイトルを見てから正面の椅子に座って作品を眺めているとき、小劇場演劇を観た後の、強烈な何かが確かに残っているけれどふわふわとした感覚と同じような気持ちでした。小劇場演劇も一般的な「綺麗」では決してないけれど、それが描く生や死、不条理さにはどこか人の美しさがあります。その美しさを、小場演劇ではないもので初めて感じられたので、この「100生きて死ね」という作品は私にとって大切なものとなりました。 他にも様々な作品を観てそれぞれに違った感情を持ち、今まであまり関心を持っていなかったアートというものに興味が湧きました。この約二日間は私にとって本当に濃いものでした。今後も様々な方向に興味の幅を広げていけたらと思います。(S.U.)

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ベネッセハウスミュージアム「100生きて死ね/100 Live and Die」(ブルース・ナウマン)

 

<ゼミ生の感想>

今回のゼミ合宿で一番印象に残っているのは豊島美術館の「母型」です。外壁はコンクリートでできていて、内部は二ヶ所の開口部があり、床の所々からは水が湧き出しています。たったこれだけなのですが、入った瞬間から空気が違うような気さえしました。開口部からは、光や音が取り込まれ、静寂の中で島の自然の音が響き、湧き出している水は、本当に生きているかのように姿を変えて流れて行きます。偶然だと思いますが、開口部から光が漏れて照らされている中で、ヒラヒラと蝶が舞っているのがとても印象的に残っています。時間の流れを感じさせず、日常の生活から離別したようで自然と同調している、不思議だがどこか安心する本当に穏やかな時を過ごすことができました。まさに母型と言うタイトルがピッタリだと思います。時間があれば、寝転んでずっとここに留まりたかったです。また、この作品は、思い思いに好きなように鑑賞している人や、島の自然、すべてが融合して一つの形になっているのだと全身で体感することができました。たくさんの作品を見て回る今まで訪れた美術館とは違い、作品を全身で感じることができる、いい意味で今まで訪れたことのない美術館でした。(S.F.)

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豊島美術館「母型」(アーティスト・内藤礼+建築家・西沢立衛)

情報デザイン専攻では、はじめてプログラミングを学ぶ1年生向けに「プログラミング入門」という授業があります。この授業では、図形やアニメーションを描きながら、楽しくプログラミングを学ぶことができるProcessingと呼ぶ言語を使用しています。

今年度も昨年の第1回コンテスト同様、最後の3回の授業時間を使ってプログラミングコンテストを実施しました。今年のコンテストのテーマは「流れ」としました。「流れ」には「水」や「空気」などの液体や気体の流れはもちろん、「自動車」や「お寿司」などの物の流れ、さらには「時の流れ」などもあり、独創的なアイデアが生まれるのを期待したからです。また、「流れ」にはアニメーションなどの動的な表現が求められるため、プログラミング技術が高められるということも狙っています。

Processingで作成された作品は、processing.jsというライブラリを使うことにより、Webブラウザでご覧いただくことができます。最後の授業では、各自が制作した作品をWebサーバにアップロードして、各クラスでプレゼンテーションを行いました。さらに4クラスに分かれて制作しておりましたので、他のクラスの作品を含めて鑑賞し、学生自身に気に入った作品を投票してもらいました。 この学生の投票と、授業を担当する4名の教員の評価を合計して、以下の4作品が優秀作品として選出しましたので、本日ここで発表します。おめでとうございます。下の画像をクリックすると、別ウインドウが開き、HTML5対応のChrome、Firefox等(IEはバージョンによってNG)で閲覧した場合にはマウスで操作することができます。

【最優秀賞】proc2014_robot

ロボット工場における流れ作業を美しく表現しています。背景画像の完成度が素晴らしいですね。

【優秀賞】 proc2014_balloon

ゆっくりとした空気の流れを気球で表現しています。クリックし続けると気球が上がります。

【優秀賞】proc2014_clock

時の流れを表現しています。中央部分のドアをクリックし続けるとドアが開きます。

【優秀賞】proc2014_season

季節の流れを美しく表現しています。右矢印キーで速度が変わります。

これらの作品を作られた学生には、後日、「第2回プログラミング入門、プログラミングコンテスト」にふさわしい素晴しい副賞(?)が渡されることになっております。今回、惜しくも選ばれなかった学生の中にもたくさんの素晴しい作品がありました。今後もプログラミングを楽しんでいただければと思います。さて、来年のテーマは何にしましょうか?

追記

「季節の流れ」を制作した学生の感想:自分の作品が優秀賞をいただけてとても驚きました。プログラミングに関しては初心者でしたが、授業で学んだ知識を形にしたものが評価していただけたのは嬉しいです。プログラムが思ったように動かずに悩んだり、書き直したりしたのは大変でしたが、解決策や代案が思いついたときの喜びも多かったのでとても良い経験となりました。時間や技術の問題で、妥協したところもありましたし、別の作品(ゲーム要素の強い物)も作ってみたいと思っているので、これからもプログラミングの勉強を頑張っていきたいです。(T.N.)

「地理情報システム(GIS)とともに」東明佐久良 教授

 

このたび、14年にわたり大妻女子大学で教鞭をとって参りました社会情報学部 東明佐久良教授が定年を迎えられ、2015年3月31日をもちまして退職されます。

つきましては、社会情報学部と情報デザイン専攻が中心となり、下記日程で最終講義「地理情報システム(GIS)とともに」を行います。どなたでも聴講いただけますので、ぜひご出席くださいますようお願い申し上げます。

 

開催日| 2015年2月17日(火)
場 所| 大妻女子大学 多摩キャンパス
時 間| 14:00〜15:30 最終講義(会場:社会情報学部棟3階6320教室)

問い合わせ先| 大妻女子大学社会情報学部情報デザイン専攻  TEL:042-339-0036(第二共同研究室)

 

東明教授最終講義ポスター

<松田ゼミ-3 前へ>

良い雰囲気の席では、正客だけでなく詰や寄付の方にまで亭主の目と心が行き届いているように感じます。水屋やお運びの人たちもまたそれぞれに席中の様子を窺い、心のこもった一椀を出して下さいます。そうした茶会に招かれたとき、私は本当にうれしく思います。良い道具を持ち、それについて上手に説明することだけがお茶ではありません。席に貼られた全ての方に亭主の思いが伝わり正客や連客と心を通わせてこそ、一座建立なのです。

手前に学ぶ 千宗室
淡交タイムズ、2011年1月号

近年ITの世界ではユーザエクスペリエンスが重要視されています。ここでは筆者の研究分野の1つであるユーザエクスペリエンスとは何かについて説明してみたいと思います。

ユーザエクスペリエンス=ユーザ体験、顧客体験

ユーザエクスペリエンスとは、ユーザ体験、顧客体験ともいい、情報提示画面を持つすべてのコンピュータ機器がユーザに与える体験を指します。実際には、画面が無くても体験は与えられますが想像しやすくこう書きます。ユーザエクスペリエンスとは、個々の画面内の要素やその振る舞いではなく、コンピュータ機器やコンピュータを通したWebサービスなどを使用した時、使い終わった後、使い続けた際に得られる体験の総称で、どのような体験をユーザに与えるかが重要であり、それに基づいて使い勝手(ユーザビリティ)やサービスを設計する、という考え方です。

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優れたユーザエクスペリエンスを与えることで、ユーザに高い満足感をもたらし、製品やサービスの競争力を飛躍的に高めることができます。ユーザエクスペリエンスという言葉はApple社が初めて使ったと言われています。iPodやiPhoneはユーザエクスペリエンスの象徴的な製品であり、Amazonはその象徴的なWebサービスなのです。また、ディズニーランドも来園したゲストに素晴らしい顧客体験を与えるエンターテインメントサービスなのです。

経験経済

では、なぜこのようなユーザエクスペリエンスが重要視されてきたのでしょうか?これまでの機能中心だったITの世界の製品やサービスが、このような体験を重視したものに移行してきている理由の1つには経済的な背景があると言われています。以下の図は、パインとギルモアが書いた「経験経済」という本から引用したものです。経済価値がどのように進展していくかを表しています。

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この図から分かるように、経済は、競争原理のもと変化していきます。最初は、コモディティを売る、次は、製品を売る、サービスを売る、という方向へ移行していき、コモディティ化を避けるため差異化となる新しい価値を作り出すことで成長していきます。ここで、コモディティとは一般化したため差別化が困難となった製品やサービスのことをいいます。このコモディティ、製品、サービスに次ぐ第4のレベルの「商品」が「経験」なのです。

例えば、コーヒーを例に考えてみましょう。コーヒーの場合は、まずはコーヒー豆を豆のまま売る、というところから経済が始まります。その後、コーヒーを淹れる手間を省くことで価値を高め、粉末のコーヒーにして売るといふうに経済がシフトし、次には喫茶店でコーヒーを出しサービス化します。この状態は長く続きましたが、ここで新しいパラダイムが登場します。他の喫茶店とは違う独特の空間(体験)を提供する「スターバックス」です。スターバックスは「The 3rd place」という言葉に表されるように、第3の場所を経験として提供する喫茶店なのです。元は同じコーヒーなのに、違う「体験」を用意することで高い付加価値を与えられるということを示します。

ITの世界でのソリューション

これと同じような現象がITでも起こってきています。機能がてんこ盛りで使った体験がよくないIT機器よりも、機能は少ないが使った体験のよいIT機器の台頭です。Apple社の音楽プレーヤiPodがそのよい例でしょう。iPodは発売当時、音質的にははるかに劣る音楽プレーヤでしたが世界を席巻しました。ユーザエクスペリエンスが優れていたのです。

つまり、新しい差異化要因として、そのサービスやアプリケーションを通してユーザが経験する体験そのものが重要な時代になったのです。前書によると、「エクスペリエンスの価格はコモディティや製品の数十倍から数百倍」とも言われています。ユーザは体験により多くの価値を見いだし、その対価を払うのです。以前トヨタのトップマネジメントの方がおっしゃっていて興味深かったものに「走れば、走るほど、空気が綺麗になる車をつくりたい」というのがありました。これもユーザエクスペリエンス近い考え方であると思います。

ユーザエクスペリエンスの実現には、メカニズムを実装する開発者とプレゼンテーションレイヤーで人を感動させるデザイナの共同作業が必須です。そこに求められるのは、ユーザとしての観点からの情報のデザインであり、一種の舞台演出です。自分ではなく、「相手の立場」からものが見れるかが大切です。もちろん、デザイン手法やデザインする人そのものの質的転換も必要です。特に、家電機器などで機能がこれだけ複雑化してくると、背後にしっかりした情報デザインの論理的な構造が必要となります。論理的な構造の設計はエンジニアが手慣れており、情動的なデザインはデザイナが優れています。デザイナとエンジニアが共通言語を持って機器のデザインと開発を混在して進める、そのようなチームが今後ますます増えるでしょう。最近の製品は静止した「絵」ではなく流れていく「演劇」(ある時間軸の中で、どんどん変わっていく)になってきていると思います。そこで必要なのは劇全体の「演出家」だと思います。まずは全体を見て演出する人がいて、個々のシーンのアートディレクションがある、というやり方、綺麗な絵が書割的に1つだけある、というつくり方ではユーザエクスペリエンス的に見てももう時代にそぐわなくなってきているのかもしれません。

その先にあるもの

ユーザエクスペリエンスの先には何があるのでしょうか?個人的には、経験経済の先にあるものは、ユーザ自身の「変容・変革」だと考えています。以下の図が示す経済価値の第5のレベルです。これはいくつか兆しが出てきています。体験を超え、ユーザそのものを変容・変革するものやこと、それが次世代のユーザエクスペリエンスでもあるのです。そして、もう1つ体験として今後重要になっていくものが生活体験 ( Life Experience ) でしょう。エンターテインメントから生活そのものの体験への移行、そしてその質の向上なのです。

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報告者: 大久保、小川(情報デザイン専攻/松田ゼミ)

松田ゼミに所属するゼミ生(大久保、小川)は、卒業研究として「小学生を対象にしたゲームの作成」に関する研究を行っています。今回は、研究の一環として、小学4~6年生を対象に実際にゲームを作成させてみて評価する実験を行いました。これは、夏に多摩市立唐木田児童館のご協力のもと行った予備実験に引きつづくもので、今回は、11月19日と11月21日の2日間、行ってきましたので報告します。

今回も、夏の予備実験に引きづづき、「Pixel Press Floors」というプログラミングすることなく「スーパーマリオ」のような横スクロール型ゲームの作成ができるiPadのアプリケーションを用いて行いました。

 

実験風景

当日は、まず私たちからPixel Press Floorsに関してを30分くらい紹介し、Pixel Press Floorsを使った簡単なゲームの作成方法を実演してみせました。その後、参加してくれた数名の児童に専用の用紙とiPadを配り、1時間くらいゲームを作成していただきました。

夏の予備実験では4名の小学4年生、今回の実験では、参加してくれたのは小学6年生が1人、小学5年生が7人で、全部で合計12人の児童を対象に実験を行うことができました。

上の写真は、左側の写真が、専用紙に意味のある記号を描き込んでいる様子で、右側の写真がそれをアプリ内にあるカメラ機能で読み込みゲーム化し、自分で作成したゲームを遊んでいる様子です。児童たちは、自分の描いたステージがゲームとなり自由に動き出せることにびっくり仰天している様子でした。以下に、実際に児童が作成したゲームのデザインとその結果作成されたゲーム画面を示します。

このデザインから作成されたゲームが以下です。背景やブロックの色などは自分で指定することができます。

 実験結果

本実験をとおして小学生であっても複雑な記号の意味を理解して、使いこなし、意味のあるゲームを作成することが可能であるということが分かりました。最もたくさん記号を使って作成されたゲームは、約1200個以上の記号を用いた複雑なものでした。また、実際に作成して通れない箇所ができてしまった場合に、もとのデザインに戻って修正するという、ゲーム作成で重要なデバッグ(プログラムの間違い)をする児童がいることも観察することができました。これらのことから、小学生であっても適切な道具を与えれば複雑なゲームを作成したり、それの間違いを修正したりすることも可能なことが分かりました。

また、最後に集計したアンケートからは、参加してくれた児童たちからは次のような感想をいただきました。

  • 自分でゲームを作るなんてやったことがなかったので、体験できてよかったです。
  • 思った以上に簡単でやりがいもあって、面白かったです。
  • 今回以上に難しく、バクダンや壊せるブロックを使いたいです。

上手に操作しながら楽しく作成している様子にホッとしながら、「とてもおもしろかった」という評価に私たちも大満足していました。

終わりに

4年生になりPixel Press Floorsの研究を始め、就活などで一時期大変な時期もありましたが、なんとかここまでたどりつくことができました。後は卒業論文を書き上げるだけです。今回の実験は、児童館を紹介して頂いた大妻女子大学社会情報学部情報デザイン専攻の炭谷先生、夏の予備実験に続き、2日間も唐木田児童館の三枝館長始めスタッフの皆さんのご好意とご協力で実現しました。ここに厚く御礼申し上げます。

 

『多摩キャンパスから、千代田キャンパスへ』

大妻女子大学は千代田キャンパス再開発に伴い、社会情報学部の履修キャンパスを多摩キャンパス(東京都多摩市)から千代田キャンパス(東京都千代田区)へ順次移転することになりました。(予定)

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来年2015年4月の社会情報学部入学生は、1年次から3年次までの3年間は多摩キャンパスで、4年次は千代田キャンパスで学びます。
なお、2017年4月以降の入学生は、1年次から4年次までの4年間を千代田キャンパスで履修することになります。

※詳しくはこちらをご確認ください PDF 号外 大妻からあなたに伝えたいこと。